あの静かな夜に突然水が出なくなった話
あれは、残業を終えて終電で帰宅した、月曜の深夜のことでした。疲れ果てた体を引きずり、一刻も早くシャワーを浴びて眠りにつきたい、その一心で浴室のドアを開けました。いつものようにシャワーの蛇口をひねると、聞こえてきたのは「シュー」という空気が漏れるような虚しい音だけ。一滴の水も出てはきませんでした。最初は状況が飲み込めず、寝ぼけているのかとさえ思いました。しかし、何度ひねり直しても結果は同じ。慌ててキッチンや洗面所の蛇口も確認しましたが、やはりどこからも水は出てきません。その瞬間、体中の血の気が引いていくのを感じました。ライフラインが一つ絶たれたという事実が、深夜の静寂の中で重くのしかかってきます。頭に浮かんだのは、水道料金の払い忘れ。しかし、すぐにそれは無いと打ち消し、次に考えたのはマンション全体での断水でした。スマートフォンのライトを頼りに共用廊下の掲示板を見に行きましたが、断水に関するお知らせは見当たりません。時刻は午前二時を回っており、隣の部屋のインターホンを押すわけにもいかず、完全に途方に暮れてしまいました。最後の望みをかけてインターネットで検索し、管理会社の24時間緊急連絡先の番号を見つけ出しました。震える手で電話をかけると幸いにも繋がり、状況を説明したところ、どうやら給水ポンプの故障らしいとの返答。すぐに業者を手配するという言葉に、心底安堵したのを今でも鮮明に覚えています。結局その夜はシャワーを浴びられませんでしたが、水が当たり前に使えることのありがたみを、これほど痛感したことはありませんでした。